『オデュッセイア』なぜ変装して故郷へ戻った?妻にも正体を明かさなかった理由
※この記事には映画『オデュッセイア』のイタカ帰還後、変装、求婚者との戦い、ペネロペとの再会についてネタバレがあります。
オデュッセウスは10年もの航海を経て、ようやく故郷イタカへ帰ります。
ところが、
王として堂々と宮殿へ戻ることはしません。
むしろ、みすぼらしい乞食のような姿に変装して自分の家へ入ります。
しかも、妻ペネロペにもすぐ正体を明かしません。
そこで気になるのが、
「なぜそこまで慎重だったの?」
「妻くらいにはすぐ名乗ってもよかったのでは?」
という疑問です。
結論|求婚者たちの力と家の中の敵味方を見極めるため
オデュッセウスが変装した最大の理由は、
自分が生きて帰ったことを知られずに、宮殿の状況を確認するため。
です。
20年近く不在だった間、宮殿は大勢の求婚者に占拠されています。
彼らは単にペネロペへ求婚しているだけではありません。
オデュッセウスの財産を使い、王家の権力まで狙っています。
正体を明かして帰れば、すぐに命を狙われる可能性があります。
イタカはもう「安心して帰れる家」ではなかった
オデュッセウスにとってイタカは20年間帰り続けたかった故郷です。
しかし実際に戻ると、そこは以前と同じ場所ではありません。
宮殿には求婚者。
自分の財産は消費されている。
息子テレマコスも命を狙われている。
つまり、
敵の本拠地へ潜入するような状況。
になっています。
原典ではアテナが老人のような姿へ変える
ホメロス原典では、女神アテナ(あてな)がオデュッセウスを変装させます。
肌。
髪。
衣服。
全体を変え、みすぼらしい老人のような姿にします。
これなら長年不在だった王だとは簡単に気づかれません。
▶ 『オデュッセイア』アテナは何者?なぜオデュッセウスを助け続けたのか
映画版でも乞食として宮殿へ近づく
ノーラン版でも、オデュッセウスは乞食のような姿でイタカへ戻ります。
映画でもこの変装は、
「英雄オデュッセウスが、何者でもない男として自分の家を見る」
ための重要な仕掛けになっています。
なぜ正体を隠して家の中を観察した?
20年も離れていれば、誰がまだ自分に忠実なのか分かりません。
そこでオデュッセウスは、正体を知らない状態で人々がどう振る舞うかを見ます。
自分の家を守っている者。
求婚者へ協力している者。
自分を侮辱する者。
すべてを確認できます。
求婚者たちは乞食姿のオデュッセウスを侮辱する
求婚者たちは、目の前の男が本当の主人だとは知りません。
そのため容赦なく侮辱します。
これはオデュッセウスにとって、
彼らが自分の家をどのように扱ってきたのかを直接確認する場面。
でもあります。
最初に信用する相手も慎重に選ぶ
原典では、オデュッセウスは忠実な豚飼いエウマイオスらと接触します。
そして息子テレマコス(てれまこす)へ正体を明かします。
すぐ全員へ名乗るのではなく、
信頼できる人物だけを味方にしていく。
のです。
なぜテレマコスには正体を明かした?
求婚者と戦うには一人では厳しいからです。
テレマコスは王家の後継者。
そして求婚者を敵と考えている。
父子で作戦を立てる必要があります。
▶ 『オデュッセイア』テレマコスは誰?オデュッセウスの息子が果たした役割を解説
ではなぜペネロペにはすぐ話さなかった?
ここが少し分かりにくいところです。
妻ペネロペ(ぺねろぺ)なら最も信頼できそうです。
しかし作戦の途中で不用意に情報が広がれば、求婚者へ気づかれる危険があります。
さらにオデュッセウス自身も、
20年間の間に何が変わったのか。
を確認する必要があります。
ペネロペ本人の気持ちも確かめたかった?
これは一部考察になります。
オデュッセウスは20年間家を空けています。
妻が今も自分を待っているのか。
求婚者の誰かを選ぼうとしているのか。
自分が帰った時にどう反応するのか。
本人も確信できません。
正体を隠した状態なら、ペネロペの本音を聞くことができます。
原典ではペネロペと会話しても正体を隠す
原典でペネロペは、乞食姿のオデュッセウスと会話します。
オデュッセウスは、
「自分はあなたの夫を知っている」
という形で話します。
つまり本人が目の前にいるのに、まだ名乗りません。
乳母エウリュクレイアには傷痕で気づかれる
ところが変装していても、完全には隠せないものがあります。
乳母エウリュクレイアは、足を洗っている際、オデュッセウスの古い傷痕を見つけます。
そして、
「この男はオデュッセウスだ」
と気づきます。
オデュッセウスは彼女へ黙っているよう求めます。
愛犬アルゴスにも見破られる
そして言葉すら交わさず主人を見抜いたのが、老犬アルゴスです。
姿は変わっている。
20年も経っている。
それでもアルゴスは主人だと分かります。
▶ 『オデュッセイア』犬はなぜオデュッセウスに気づいた?アルゴスの場面が意味するもの
最後は弓によって正体を示す
ペネロペが求婚者へ弓の試練を出します。
誰もオデュッセウスの弓を扱えません。
そこで乞食姿のオデュッセウスが弓を手にします。
そして弓を張り、試練を成功させます。
ここから正体を隠す段階は終わります。
▶ 『オデュッセイア』弓の試練とは?なぜ求婚者たちは弓を引けなかったのか
なぜ最初から弓を持って暴れなかった?
敵の人数。
武器。
味方。
宮殿の状況。
何も分からない状態では危険です。
オデュッセウスの強さは、
力任せに戦わず、戦う前に情報を集めること。
にあります。
変装はオデュッセウスらしい戦い方
ポリュペモスには偽名。
トロイでは木馬。
イタカでは乞食への変装。
オデュッセウスは、
「自分が何者かを隠す」
ことを何度も武器にします。
ここからは考察|英雄が自分の家で「誰でもない者」になる
トロイア戦争では英雄。
イタカでは王。
しかし帰還した時は乞食。
20年かけてようやく帰ったのに、自分の名前すら名乗れない。
ここには、
「帰ったからといって、すぐ以前の自分へ戻れるわけではない」
という本作全体のテーマも表れているように見えます。
まとめ|変装は敵味方を見極め、確実に家を取り戻すため
オデュッセウスが変装した理由を整理すると、
求婚者に生存を知られないため。
宮殿の状況を確認するため。
誰が味方で誰が敵か見極めるため。
テレマコスと秘密裏に作戦を立てるため。
ペネロペや家の人々の本心も確認するため。
です。
つまり変装は臆病だからではありません。
戦う前に情報を集め、確実に勝つためのオデュッセウスらしい策略。
だったのです。
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『オデュッセイア』を原典でも読みたい方へ
乞食姿で自分の家へ入り、誰が忠実で誰が裏切ったのかを確かめていく過程は、原典ではさらに細かく描かれています。
『オデュッセイア』上巻
『オデュッセイア』下巻
変装、アルゴスとの再会、ペネロペとの会話、弓の試練、求婚者との決戦は下巻の大きな見どころです。
