※この記事には『汝、星のごとく』原作小説のネタバレがあります。

『汝、星のごとく』で、井上暁海の人生に大きな影響を与えているのが母・井上志穂です。

暁海は島を出たいと思っているのに、母親を置いていくことができません。

そのため読んでいると、

「志穂って毒親なの?」

「暁海を自分のために縛っているのでは?」

と感じる方も多いと思います。

この記事では、志穂と暁海の母娘関係について整理します。

結論|志穂には「毒親」と感じる要素がある

先に結論を言うと、志穂の言動には暁海の人生を強く縛ってしまう部分があります。

その意味では、「毒親」と感じる読者がいるのは自然です。

ただし『汝、星のごとく』は、志穂を単純な悪人として描いているわけではありません。

志穂自身も、夫の不倫によって深く傷ついた人物だからです。

問題なのは、志穂が傷ついたことそのものではありません。

その苦しみを、結果として娘の暁海まで背負うことになってしまった点です。

志穂はもともと普通の母親だった

志穂は最初から暁海に依存していたわけではありません。

家庭が大きく変わるきっかけになったのは、夫の不倫です。

暁海の父親は林瞳子と関係を持ち、家を出ていきます。

夫に裏切られた志穂は精神的に不安定になり、それまでの生活を保つことが難しくなっていきます。

講談社による原作の紹介でも、暁海は「父の不倫で心を壊した母と暮らす高校生」として説明されています。

母を支える役目が暁海に移ってしまう

本来、子どもは親から守られる立場です。

しかし暁海の家庭では、その関係が逆転していきます。

暁海が母親の精神状態を心配し、生活を支え、自分の行動まで母親に合わせるようになります。

暁海自身がまだ高校生なのに、家庭を支える大人のような役割を背負ってしまうのです。

暁海は本当は島を出たい

ここで重要なのは、暁海自身は島に残りたいわけではないということです。

映画公式サイトでも、暁海は「いつか自分の力で島を出てゆきたい」と夢見ている人物として紹介されています。

櫂と出会ったことで、島の外で生きる未来も意識するようになります。

それでも母親を置いていくことができません。

『汝、星のごとく』暁海はなぜ島に残った?家族との関係を解説

志穂が暁海を縛るのは「悪意」だけではない

志穂は、娘の人生を壊してやろうと考えているわけではありません。

むしろ、自分自身が深く傷つき、不安定になっているために暁海へ依存してしまいます。

だからこそ、この母娘関係は複雑です。

悪意がなくても、相手を苦しめてしまうことはあります。

愛情があっても、相手の自由を奪ってしまうこともあります。

『汝、星のごとく』では、その難しさが描かれています。

暁海は「自分がいなければ」という罪悪感を抱える

暁海が島を離れられない大きな理由の一つが罪悪感です。

「私までいなくなったら、お母さんはどうなるのか」

そう考えてしまえば、自分だけ自由になることは簡単ではありません。

しかも父親はすでに家庭を離れています。

暁海には、母親を見捨てることが父親と同じ行動のように感じられた可能性もあります。

母を助けることと、自分の人生を犠牲にすることは違う

『汝、星のごとく』で繰り返し描かれるのが、自分の人生を生きることです。

家族を大切にすることは悪いことではありません。

しかし、家族のために自分の人生をすべて諦めなければならないわけでもありません。

暁海は、その境界線をなかなか引くことができません。

櫂との関係にも志穂の存在が影響する

高校卒業後、櫂は東京へ向かいます。

暁海も一緒に行くことができれば、2人の未来は違ったかもしれません。

しかし暁海は母親を置いていけず、島に残ります。

その結果、櫂と暁海は遠距離恋愛になります。

東京と島で生活環境が大きく変わり、2人のすれ違いも増えていきます。

『汝、星のごとく』櫂はなぜ暁海と別れた?すれ違った理由

志穂とほのかは違うようで似ている

暁海の母・志穂と、櫂の母・ほのかは一見すると正反対です。

ほのかは自分の恋愛を優先し、自由に生きます。

志穂は夫の恋愛によって傷つき、家庭の中に閉じこもっていきます。

しかし結果として、どちらの母親も子どもの人生を強く左右しています。

『汝、星のごとく』櫂の母・ほのかはどんな人?親子関係を解説

瞳子は暁海に別の生き方を見せる

志穂とは対照的な存在として登場するのが林瞳子です。

瞳子は暁海の父親の不倫相手です。

当然、暁海にとって簡単に受け入れられる人物ではありません。

しかし瞳子は、自分の仕事を持ち、自分の人生を生きている女性でもあります。

その姿に暁海は反発しながらも憧れを抱きます。

『汝、星のごとく』瞳子はどんな人物?暁海に与えた影響を解説

志穂は「毒親」と断定できる?

「毒親」という言葉は正式な医学上の診断名ではありません。

そのため、志穂を客観的に「毒親である」と断定することはできません。

ただし、暁海が母親への責任感や罪悪感によって自分の人生を自由に選べなくなっていることは、作品の重要な部分です。

その意味では、暁海にとって非常に重い親子関係だったことは間違いありません。

暁海が成長するということは母親から離れることでもある

暁海の成長は、仕事を持つことだけではありません。

「母親の人生」と「自分の人生」を分けて考えられるようになることも大きな変化です。

物語の終盤で暁海は、周囲ではなく自分自身の意思で櫂のもとへ行くことを選びます。

『汝、星のごとく』暁海は最後どうなる?人生の選択を解説

まとめ

志穂は、夫の不倫によって深く傷つき、精神的に不安定になった母親です。

その結果、娘である暁海が母親を支える役割を背負い、自分の人生を自由に選びにくくなります。

そのため「毒親のように見える」と感じる部分はあります。

しかし志穂自身もまた、誰かに深く傷つけられた人物です。

『汝、星のごとく』は、志穂を単純な悪人にするのではなく、傷ついた人が別の誰かを縛ってしまう複雑さまで描いています。

『汝、星のごとく』を原作でも読みたい方へ

暁海がなぜ母親から簡単に離れられなかったのかは、母娘の長い関係を読むことでより理解しやすくなります。

櫂との恋だけでなく、暁海が「自分の人生を生きる」までの物語として読むと、本作の見え方も変わってきます。