※この記事には映画『オデュッセイア』のスキュラの場面と、仲間6人が死亡する展開について重大なネタバレがあります。

『オデュッセイア』の中でも、オデュッセウスの判断が最も厳しく問われるのがスキュラの場面です。

オデュッセウスは事前に、

スキュラ側を通れば仲間6人が犠牲になる。

ことを知っていました。

それでも船をその方向へ進めます。

そこで、

「なぜ6人を助けようとしなかった?」

「最初から犠牲にしたということ?」

と感じた方もいるのではないでしょうか。

結論|6人を救おうとすれば全員を失う可能性があったから

オデュッセウスが選んだのは、

6人の命と引き換えに、船と残りの仲間を助ける。

という選択です。

冷酷に見えます。

しかしもう一方にはカリュブディスがいます。

こちらへ近づけば、船そのものが巨大な渦へ飲み込まれ、全員が死亡する可能性がありました。

つまり、

全員を助ける選択肢そのものがなかった。

のです。

キルケは事前に結果を教えていた

魔術師キルケ(きるけ)は、航海を再開するオデュッセウスへ危険を説明します。

スキュラへ近づけば6人。

カリュブディスへ近づけば船全体。

そしてキルケは、

スキュラ側を通過するよう助言します。

▶ 『オデュッセイア』スキュラとカリュブディスとは?究極の二択をわかりやすく解説

オデュッセウスは別の方法を探そうとした

原典のオデュッセウスも、最初から6人を簡単に諦めたわけではありません。

キルケへ、

「カリュブディスを避けながらスキュラとも戦えないか」

と尋ねます。

しかしキルケは否定します。

スキュラは人間が戦って倒せる相手ではないからです。

それでもオデュッセウスは武装する

キルケから「戦うな」と言われているにもかかわらず、オデュッセウスは鎧を着け、槍を構えます。

つまり、完全に仲間を見捨てていたわけではありません。

可能なら助けようとしていた。

しかし実際にはスキュラの攻撃は一瞬でした。

なぜ仲間へスキュラのことを言わなかった?

ここが最も議論になる点です。

原典ではオデュッセウスは、

スキュラが襲ってくることを仲間へ知らせません。

理由も本人が説明しています。

もし仲間が恐怖を感じれば、

櫂を捨てる。

船底へ逃げ込む。

船を進められなくなる。

と考えたからです。

つまりオデュッセウスは仲間を騙した?

広い意味では、

重要な情報を意図的に隠した。

ことになります。

仲間たちは、自分たちのうち誰か6人が死ぬと知らないまま船を進めています。

オデュッセウスは、全員を動かすために真実を伏せました。

スキュラは突然襲ってくる

船員たちはカリュブディスの巨大な渦に気を取られます。

その瞬間、スキュラが反対側から襲います。

6つの首が伸び、6人を船からつかみ上げます。

オデュッセウスには助ける時間さえありません。

オデュッセウスにとっても最もつらい光景だった

原典でオデュッセウスは、スキュラにさらわれた仲間たちが自分の名前を呼びながら助けを求める姿を見ています。

そして、

航海中に見た中でも最も痛ましい光景だった。

という趣旨で語ります。

つまり本人も、

「6人くらいなら仕方ない」

と簡単に割り切っていたわけではありません。

なぜ6人を助けに戻らなかった?

戻れば再びスキュラの攻撃範囲へ入ります。

キルケも、スキュラの近くで時間をかければ、さらに6人を奪われる可能性があると警告しています。

そのため、

一度捕まった6人を助けるため船を止めることは、さらに犠牲を増やす。

ことになります。

船長としては合理的、仲間としては残酷

オデュッセウスの判断を二つの立場から見ると分かりやすいです。

船長として見る。

→ 全滅を避けるため合理的。

犠牲になる船員から見る。

→ 自分たちが知らないところで命を計算された。

非常に残酷です。

映画版ではこの対立をさらに強く描く

ノーラン版では、オデュッセウスが事前に危険を知っていたことを仲間が知り、強く反発する展開が加えられています。

原典以上に、

「お前は俺たちのうち6人が死ぬと知っていたのか」

という指揮官への不信が表面化します。

この場面がその後の仲間との関係にも影響する

旅の後半、オデュッセウスと仲間の間には少しずつ亀裂が生まれます。

船長は、

危険を知っている。

命令する。

しかし自分たちにはすべてを話していない。

そう思われれば、信頼は揺らぎます。

その後の太陽神の牛の事件でも、仲間たちはオデュッセウスの命令に従わなくなります。

▶ 『オデュッセイア』太陽神ヘリオスの牛はなぜ食べてはいけなかった?仲間が全滅した理由

オデュッセウスが6人の名前を選んだわけではない

ここは誤解しやすいところです。

オデュッセウスが、

「この6人を犠牲にしよう」

と人物を選んだわけではありません。

スキュラが誰を捕まえるかは分かりません。

オデュッセウスが選んだのは、

「6人が犠牲になる航路」

です。

もし仲間へ全部話していたら?

これは原典でも答えのない仮定です。

仲間が納得して進んだ可能性もあります。

逆に恐怖で船を動かせず、カリュブディスへ流された可能性もあります。

オデュッセウスは後者を恐れました。

ここからは考察|正しい判断でも罪悪感は消えない

これは戦争や災害でも起こる難しい問題です。

全員は助けられない。

誰かを切り捨てれば多くを救える。

計算上は正しい。

しかし、犠牲になった人にとっては何の救いにもなりません。

映画のオデュッセウスが苦しむのは、

「合理的だったから自分は悪くない」

とは思えないからではないでしょうか。

まとめ|助けなかったのではなく、全員を救える方法がなかった

スキュラの場面を整理すると、

キルケから6人が犠牲になると聞いていた。

もう一方のカリュブディスは船ごと全滅する危険があった。

オデュッセウスはスキュラ側を選んだ。

仲間にはスキュラの危険を完全には伝えなかった。

理由は恐怖で船を動かせなくなるのを防ぐため。

スキュラが6人をさらい、救出する時間はなかった。

という流れです。

オデュッセウスが選んだものは、

6人の命ではなく、残った全員を生かす可能性。

でした。

しかし、その合理的な判断が本当に正しかったのか。

その重さを残すところが、この場面の怖さです。


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