『白鳥とコウモリ』倉木達郎はなぜ安西知希が犯人だと分かった?原作では織恵が知っていた
映画『白鳥とコウモリ』を見ていて、かなり引っかかるのが、
「倉木達郎は、なぜ安西知希が白石健介を殺した犯人だと分かったの?」
という点です。
達郎は白石健介殺害事件について、
「全部、私がやりました」
と自白します。
しかし本当の犯人は安西知希。
達郎は知希を守るため、自分が罪をかぶろうとします。
そこで疑問になるのが、
そもそも達郎は、いつ、どうやって知希が犯人だと知ったのか
ということです。
結論から言うと、映画版ではこの経緯がかなり省略されています。
一方、原作小説ではもっと具体的です。
先に知希の犯行を知ったのは母親の浅羽織恵。
そして織恵から知らされた倉木達郎が知希本人と話し、犯行の詳しい経緯を知ったうえで、身代わりになることを決めます。
この記事では、映画版では分かりにくかったこの流れを、原作との違いも含めて整理します。
結論|原作では織恵が先に知希の犯行を知り、倉木へ伝える
原作では、倉木達郎が突然「知希が犯人だ」と勘づいただけではありません。
流れを簡単に整理すると、
倉木が織恵に白石健介についてメールする
↓
知希がそのメールを盗み見る
↓
知希が白石健介の存在と33年前の真相を知る
↓
知希が白石を殺す
↓
織恵が知希を問い詰める
↓
知希が自分が殺したことを認める
↓
織恵が倉木へ知らせる
↓
倉木が知希本人から詳しい話を聞く
↓
倉木が身代わりの自白をする
という流れです。
映画版では「達郎が知った経緯」がかなり省略されている
映画版では、倉木達郎が知希の犯行を知った瞬間がはっきり描かれていません。
知希から直接、
「自分が白石健介を殺した」
と告白される場面も詳しくは描かれません。
そのため映画だけを見ると、
「達郎はなぜ知希が犯人だと分かった?」
という疑問が残りやすくなっています。
映画公式でも、倉木達郎が「すべての事件の犯人」と自白し、それに和真と美令が違和感を抱く構造までは説明されていますが、達郎が真犯人を知った詳細までは紹介されていません。
原作ではまず倉木が浅羽織恵に33年前の真相を打ち明ける
原作では、倉木達郎と浅羽織恵の関係が映画より細かく描かれています。
織恵は、1984年の灰谷昭造殺害事件で犯人とされた福間淳二の娘です。
倉木は、当時の真相を知っていました。
本当の犯人は福間淳二ではなく、
白石健介
だったことです。
倉木は長年その秘密を抱えていましたが、やがて織恵へ過去の真相を打ち明けます。
倉木は白石健介が弁護士になっていることを知る
その後、倉木は偶然、白石健介が弁護士として生きていることを知ります。
白石自身も33年前の事件を忘れていたわけではありません。
長年、罪悪感を抱えながら生きていました。
倉木は白石と再び接触します。
そして悩んだ末、
「白石健介が今も生きていて、弁護士になっている」
ということを織恵へメールで伝えます。
そのメールを安西知希が盗み見た
ここが非常に重要です。
原作では、安西知希がたまたま織恵のもとにいるとき、
倉木から届いたメールを盗み見ます。
そのメールによって知希は、
- 祖父・福間淳二が本当は殺人犯ではなかったこと
- 本当の犯人が白石健介だったこと
- その白石が今も弁護士として生きていること
を知ることになります。
つまり、知希が白石健介へたどり着いたきっかけそのものが、倉木から織恵へのメールだったのです。
知希はなぜそのメールを見た?
知希は母・織恵と普段ずっと一緒に暮らしていたわけではありません。
織恵は夫と離婚し、知希は父親側で暮らしていました。
しかしそのとき知希は織恵のもとを訪れており、そこで倉木からのメールを見てしまいます。
この偶然が、その後の白石健介殺害事件につながっていきます。
知希は白石健介を殺す
知希は白石健介について知ったあと、白石へ近づきます。
そして2017年、白石健介を殺害します。
知希は福間淳二の孫です。
そのため一見すると、
「祖父の復讐」
に見えます。
しかし知希の動機はそれだけではありません。
知希自身には、以前から人を殺すことへの危うい興味がありました。
白石の過去は、その殺人欲求を実行するための理由にもなってしまいます。
▶ 『白鳥とコウモリ』安西知希の殺人動機がひどい?「殺人に興味があった」の意味を考察
では織恵は知希が犯人だと知っていた?
原作では知っています。
白石健介の死後、織恵は知希を問い詰めます。
そして知希は、
自分が白石を殺したことを認めます。
つまり、倉木達郎より先に知希の犯行を把握したのは、母親の織恵です。
織恵はなぜ倉木へ知らせた?
織恵にとって倉木は、33年前の事件の真相を知る人物です。
そして白石健介について自分に知らせてきた人物でもあります。
知希が白石を殺したと知った織恵は、その事実を倉木へ伝えます。
ここで初めて倉木は、
安西知希が白石健介殺害事件の真犯人だと知る
ことになります。
倉木は知希本人からも詳しい話を聞く
原作では、織恵から聞いただけで終わりません。
倉木はさらに知希本人と話します。
そこで、
どのように白石と接触したのか
なぜ白石を殺したのか
犯行の具体的な経緯
などを知ります。
だからこそ倉木は、警察に対してかなり具体的な嘘の供述を作ることができました。
これで「達郎はなぜ公衆電話のことまで知っていた?」も説明できる
映画版では、
「達郎はなぜ公衆電話のことまで知っている?」
という疑問が残ります。
しかし原作では、倉木が知希本人から犯行の詳細を聞いているため、
犯行に使われた連絡方法や接触の経緯まで知っていても不自然ではありません。
つまり、映画版だけでは省略されていた情報が、原作では補完されています。
達郎は「推理して犯人を当てた」わけではない
ここは前の記事から修正したい重要なポイントです。
映画だけを見ると、達郎が状況から知希を犯人だと察したようにも見えます。
しかし原作では、
達郎が推理だけで真犯人を特定したわけではありません。
織恵から知希の告白を知らされ、さらに知希本人から詳しい話を聞いています。
つまり達郎は、
「犯人ではないかと疑った」
のではなく、
「知希が犯人だと具体的に知った」
うえで行動したことになります。
なぜ達郎は知希を警察へ突き出さなかった?
では、真犯人を知った達郎は、なぜ警察へ知らせなかったのでしょうか。
ここには33年前の事件への罪悪感があります。
1984年、達郎は白石健介を守るために真実を隠しました。
その結果、無実の福間淳二が犯人にされました。
福間は厳しい取り調べを受け、命を失います。
残された家族も長年苦しみました。
そしてその福間淳二の孫が、安西知希です。
達郎は「自分にも責任がある」と感じた
達郎からすれば、
33年前に自分が白石をかばわなければ、福間家はここまで苦しまなかった
という思いがあります。
その福間家の孫が殺人を犯した。
達郎は、知希の人生まで壊れてしまうことに耐えられなかったのでしょう。
そして、
「今度は自分が罪をかぶればいい」
と考えます。
だから倉木達郎は嘘の自白をした
こうして達郎は、警察に対して、
「白石健介を殺したのは自分だ」
と嘘をつきます。
さらに33年前の灰谷昭造殺害事件まで、
「自分がやった」
と自白します。
つまり達郎は、二つの事件をすべて自分の罪にしようとしました。
▶ 『白鳥とコウモリ』倉木達郎はなぜ嘘の自白をした?本当は何を隠していた?
達郎は33年前と同じことを繰り返している
1984年。
白石健介を守るため、真実を隠す。
2017年。
安西知希を守るため、自分が犯人だと嘘をつく。
達郎は二度とも、
「誰かの人生を守るために真実を隠す」
という同じ選択をしています。
しかし、そのたびに別の人間が傷つきます。
33年前には福間家、2017年には和真が苦しむ
33年前には、達郎が白石をかばったことで福間淳二とその家族が苦しみました。
2017年には、達郎が知希をかばったことで、息子・倉木和真が
「殺人犯の息子」
になります。
つまり達郎は誰かを救おうとするたびに、別の家族へ苦しみを移してしまっています。
織恵もかなり苦しい立場だった
母親の浅羽織恵も、この事件では非常に苦しい立場です。
父・福間淳二は冤罪によって殺人犯とされました。
そして自分の息子・安西知希が、今度は本当に人を殺してしまいます。
つまり織恵は、
「殺人犯の娘」として苦しんだあと、本当の「殺人犯の母親」になる
という皮肉な立場に置かれます。
しかも父は本当は殺人犯ではありませんでした。
福間淳二→織恵→知希という3世代の悲劇
事件を家族関係で整理すると、
福間淳二
1984年、無実なのに灰谷殺害事件の犯人とされる
↓
浅羽織恵
「殺人犯の娘」として人生に影響を受ける
↓
安西知希
祖父の事件の真相を知り、白石健介を殺す
となります。
一度生まれた冤罪が、次の世代、そのまた次の世代まで影響しているのです。
▶ 『白鳥とコウモリ』福間淳二はなぜ犯人にされた?冤罪事件の真相を解説
メールを送った倉木自身も間接的なきっかけを作っている
さらに皮肉なのは、知希が白石の存在を知ったきっかけが、
倉木から織恵へ送られたメール
だったことです。
倉木は悪意で白石のことを教えたわけではありません。
織恵に真実を知らせるためでした。
しかしそのメールを知希が盗み見たことで、新しい殺人事件につながります。
達郎からすれば、
「自分が白石のことを知らせなければ、知希は白石を殺さなかったかもしれない」
という罪悪感まで生まれた可能性があります。
知希の犯行は達郎の責任ではない
ただし、ここは分けて考える必要があります。
倉木がメールを送ったことが結果的にきっかけになったとしても、
白石健介を殺すことを選んだのは知希自身です。
達郎が33年前に間違った選択をしたこと。
織恵へメールしたこと。
知希が殺人を犯したこと。
それぞれの責任は別です。
映画版ではなぜここを省いた?
これは考察です。
原作者・東野圭吾さん自身が、『白鳥とコウモリ』について「かなり複雑な構造」を持つ作品だとコメントしています。
実際、原作には、
- 倉木と織恵の関係
- 倉木から織恵へのメール
- 知希がメールを盗み見る
- 織恵が知希を問い詰める
- 織恵から倉木へ連絡する
- 倉木が知希本人から話を聞く
という複数の段階があります。
映画では限られた上映時間の中で物語を整理する必要があるため、この一連の説明が圧縮された可能性があります。
映画だけを見て「見逃した?」と思わなくていい
映画を見て、
「達郎が知希の犯行を知る場面を見逃したかな?」
と思った人もいるかもしれません。
しかし、原作と比べると映画版ではこの経緯そのものがかなり簡略化されています。
そのため、疑問を持つのは自然です。
映画と原作の違いを整理
映画版
達郎が知希をかばっていることは分かる。
しかし、いつ・どうやって知希の犯行を知ったのかはかなり曖昧。
原作小説
倉木が織恵へ白石のことをメール。
知希がメールを盗み見る。
知希が白石を殺害。
織恵が知希を問い詰めて犯行を知る。
織恵が倉木へ知らせる。
倉木が知希本人から詳しい犯行内容を聞く。
そのうえで倉木が身代わりになる。
原作では、この流れがはるかに分かりやすく描かれています。
まとめ|達郎は推理で知希を当てたのではなく、原作では織恵から知らされていた
倉木達郎が安西知希を犯人だと知った理由は、原作を読むとはっきりします。
最初に知希の犯行を知ったのは、母親の浅羽織恵です。
織恵が知希を問い詰めると、知希は白石健介を殺したことを認めます。
そして織恵が倉木達郎へ知らせます。
さらに倉木は知希本人と話し、犯行の詳しい経緯を聞きます。
つまり達郎は、
状況証拠だけで「知希が犯人だ」と推理したわけではありません。
織恵から知らされ、知希本人からも詳細を聞いたうえで真犯人だと知っていました。
また、知希が白石健介の存在を知ったきっかけも、倉木が織恵へ送ったメールでした。
そのメールを知希が盗み見たことで、白石へたどり着きます。
この一連の流れを知ると、倉木がなぜ知希を守ろうとしたのかも理解しやすくなります。
倉木には、
33年前に福間家を苦しめた罪悪感
だけでなく、
自分が送ったメールが結果的に知希と白石を結びつけてしまった
という新たな罪悪感もあったと考えられます。
映画だけでは少し唐突に見えた倉木の身代わり自白。
原作では、その前にこれだけの経緯が描かれているのです。
▶ 『白鳥とコウモリ』真犯人は誰?安西知希はなぜ白石健介を殺した?
▶ 安西知希の殺人動機がひどい?「殺人に興味があった」の意味を考察
▶ 『白鳥とコウモリ』東京ドームの嘘はなぜ?倉木達郎の証言を考察
映画を観て原作も気になった方へ
映画では時間の都合で省かれている人物関係や捜査の流れも、原作ではより細かく描かれています。
映画を観たあとに読むと、倉木達郎や白石健介、それぞれの人物の印象も少し変わって見えると思います。
