※この記事には映画『オデュッセイア』とホメロス原典のペネロペ、求婚者、機織りの策略についてネタバレがあります。

ペネロペを象徴する有名な場面が、

機織り。

です。

昼間は布を織る。

ところが夜になると、自分でほどいてしまう。

一見すると不思議な行動ですが、これには明確な理由があります。

求婚者との再婚をできるだけ先延ばしするため。

です。

結論|「布を完成させたら再婚する」と約束し、夜にほどいて完成を遅らせた

ペネロペ(ぺねろぺ)は求婚者たちへ、

義父ラエルテス(らえるてす)の死装束を完成させるまでは結婚できない。

と説明します。

昼間は真面目に織っているように見せる。

しかし夜になると、その日に織った部分をほどく。

これによって布は完成しません。

原典では、この策略を約3年間続けます。

なぜペネロペは再婚を迫られていた?

夫オデュッセウスは20年近く帰ってきません。

トロイア戦争へ約10年。

帰還の旅に約10年。

イタカでは、

「王はもう死んだのではないか」

と考える人々が増えます。

そしてペネロペへ大勢の求婚者が集まります。

求婚者の目的は結婚だけではない

ペネロペはイタカ王の妻です。

そのため、彼女と結婚すれば王位へ近づけます。

求婚者たちは、

ペネロペ。

オデュッセウスの財産。

王家。

イタカでの権力。

すべてを手に入れられる可能性があります。

「嫌です」だけでは済まない

ペネロペ自身は再婚したくありません。

しかし何十人もの有力者が宮殿へ居座っています。

単純に拒絶すれば、政治的な対立へ発展する可能性もあります。

そこでペネロペは、

直接拒絶せず、理由をつけて決定を先延ばしする。

という方法を取ります。

なぜ「義父の死装束」だった?

ラエルテスはオデュッセウスの父親です。

年老いたラエルテスが亡くなった時に使う立派な布を準備しておく。

これは社会的にも無視しづらい理由です。

求婚者側も、

「そんなものは作らなくていいから今すぐ再婚しろ」

とは言いにくくなります。

昼間は本当に織っている

ペネロペの策略が巧妙なのは、何もしないわけではないことです。

求婚者たちが見ている昼間は布を織ります。

そのため、

「約束を守って準備を進めている」

ように見えます。

夜になると全部ほどく

ところが人目がなくなる夜。

ペネロペは、その日に進んだ部分をほどきます。

翌日になれば、また同じように織る。

この繰り返しです。

布はいつまでたっても完成しません。

約3年間、求婚者を騙し続けた

原典ではこの策略が長期間成功します。

ペネロペは約3年間、求婚者たちを欺きます。

つまり数日程度のその場しのぎではありません。

毎日織り、毎晩ほどく。

という非常に根気の必要な作戦です。

どうしてバレた?

最後はペネロペに仕えていた女性の一人が秘密を求婚者へ漏らします。

求婚者たちは夜の行動を確認し、ペネロペが布をほどいていたことを知ります。

こうして策略は使えなくなります。

それでも3年間稼いだ意味は大きい

最終的にはバレます。

しかし、ペネロペはその間、再婚を避けました。

テレマコスも成長します。

オデュッセウスが帰還する可能性も残ります。

時間を稼ぐことそのものが目的だったため、策略は十分な成果を上げています。

機織りはペネロペの「武器」

オデュッセウスには剣があります。

弓があります。

船があります。

しかしペネロペは宮殿で大勢の男に囲まれています。

力で追い出すことはできません。

そこで使った武器が、

機織りと知恵。

です。

夫オデュッセウスとよく似ている

オデュッセウスは、

偽名を使う。

変装する。

敵を騙す。

時間を稼ぐ。

といった策略を得意とします。

ペネロペも同じです。

正面から勝てない相手に、知恵で対抗します。

▶ 『オデュッセイア』ペネロペはなぜ20年間待った?求婚者と再婚しなかった理由

だから二人は似た者夫婦

オデュッセウスだけが「知恵の英雄」なのではありません。

家に残ったペネロペもまた、非常に頭の切れる人物です。

二人が最後に再会した際も、ペネロペは相手の言葉をすぐ信じず、夫婦だけが知る秘密を使って確認します。

▶ 『オデュッセイア』ペネロペはどうやって夫だと確信した?夫婦だけが知る秘密を解説

映画版でも機織りは残されている

ノーラン版では、ペネロペが機織りを利用して求婚者を先延ばしする設定も描かれます。

映画ではさらに、

「構造は、人々がその意味を信じなければ成り立たない」

というような考え方と機織りを重ねています。

単なる家事ではなく、王国や社会そのものを維持する行為としても見せています。

機織りと映画の構成も似ている?

ここからは考察です。

映画は時系列を単純に一直線には描きません。

現在。

過去。

記憶。

別の人物の物語。

それらを行き来しながら全体像を作ります。

まるで、

糸を織り、ほどき、また別の形で織り直す。

ような構成です。

ペネロペの機織りは、映画全体の語り方とも重なっているように見えます。

ホメロスの原典自体も「織る」ような物語

『オデュッセイア』原典も、最初から順番に冒険を語る作品ではありません。

物語はオデュッセウスの旅の終盤から始まり、過去の冒険は本人の回想として語られます。

異なる時間を組み合わせて一つの物語を作っています。

その意味でも「織る」という行為は作品全体に合っています。

なぜペネロペはもっと早く別の作戦を使わなかった?

ペネロペの立場では、時間そのものが味方です。

オデュッセウスが生きていれば帰ってくる可能性がある。

テレマコスも成長する。

求婚者側の状況も変わるかもしれない。

だから、

「勝つ」より「決めない」

ことに価値があります。

機織りは「忠実な妻」の象徴だけではない

後世ではペネロペは、夫を長年待った貞淑な妻として語られることがあります。

もちろんその面もあります。

しかし機織りの場面を見ると、

自分で状況を操作し、男たちを3年間騙した策略家。

でもあります。

単なる受け身の女性ではありません。

ペネロペとテレマコスのための時間でもあった

オデュッセウス不在の間、テレマコスは子どもから青年へ成長します。

ペネロペが時間を稼いだ年月は、

息子が王家を支えられる年齢になるまでの時間

でもあります。

そして最後には「弓の試練」へ

機織りの策略が破られ、いつまでも決定を引き延ばすことが難しくなります。

そこで物語後半では、オデュッセウスの弓を使った試練が重要になります。

▶ 『オデュッセイア』弓の試練とは?なぜ求婚者たちは弓を引けなかったのか

まとめ|昼に織り、夜にほどいて3年間再婚を引き延ばした

ペネロペの機織りを整理すると、

求婚者から再婚を迫られる。

義父ラエルテスの死装束を完成させたら再婚すると約束。

昼間は求婚者の前で布を織る。

夜になると織った部分をほどく。

その方法で約3年間時間を稼ぐ。

最後は秘密を漏らされて発覚。

という策略です。

この場面が示しているのは、

ペネロペもまた、オデュッセウスに負けない知恵の持ち主。

ということです。

夫が海で怪物と戦っている間、妻も家の中で別の戦いを続けていたのです。


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