※この記事には、東野圭吾『殺人の門』原作のネタバレがあります。

『殺人の門』では、主人公・田島和幸が何度も倉持修に対して「あいつを殺したい」という思いを抱きます。

では、田島はなぜそこまで倉持を憎むようになったのでしょうか。

結論から言えば、一つの事件が原因ではありません。

小学生時代から大人になるまで、人生を立て直そうとするたびに倉持が現れ、そのたびに田島が傷ついていく。

その積み重ねが、田島の中で殺意に変わっていきます。

田島と倉持は小学校時代からの友人

田島和幸と倉持修が親しくなるのは小学生のころです。

田島は歯科医院を営む裕福な家庭で育ちました。

倉持はそんな田島に近づき、田島の知らない世界を見せます。

当初の田島にとって倉持は、危険な人物というより、刺激的で魅力のある同級生でした。

しかし、この出会い以降、田島の人生は少しずつ悪い方向へ進んでいきます。

少年時代から倉持に対する疑いが生まれる

田島は倉持に誘われ、賭け事など自分がそれまで知らなかった世界に足を踏み入れます。

その一方で祖母が亡くなり、母による毒殺の噂が広がり、両親は離婚。

家庭環境も崩れていきます。

もちろん、田島に起きたすべての不幸を「倉持が直接起こした」と単純に断定することはできません。

しかし田島は成長するにつれて、自分の人生が悪い方向へ動く場面と倉持の存在が何度も重なっていることに気づきます。

田島が殺意を抱くのは裏切りが繰り返されるから

もし一度だけなら、田島も倉持をここまで憎まなかったかもしれません。

ところが『殺人の門』では、田島が人生をやり直そうとするたびに倉持が戻ってきます。

そして田島は、

「また騙されたのではないか」

「また利用されたのではないか」

「自分の人生を壊したのは倉持ではないか」

という疑いを強めていきます。

この積み重ねによって、単なる怒りだった感情が「殺したい」という殺意へ変わっていきます。

江尻陽子をめぐる出来事も大きい

田島が心を寄せる女性・江尻陽子をめぐる出来事も、倉持への憎悪を強めます。

田島は陽子と倉持の関係を疑うようになり、その後に起きた出来事を通して、倉持への不信感をさらに強くしていきます。

ただし、陽子の妊娠などについて原作ですべてが客観的に確定しているわけではありません。

重要なのは、田島自身が「また倉持に大切なものを奪われた」と感じたことです。

社会人になっても倉持から逃れられない

大人になった田島は、何度も倉持から距離を取ろうとします。

ところが生活に困ったとき、倉持が再び現れます。

原作下巻では、田島は倉持の紹介によって東西商事で仕事を始めます。

しかし田島は、やがて自分が行っている仕事が詐欺なのではないかと疑います。

田島が退職した後、会社は強制捜査を受けて破産し、倉持も姿を消します。

田島からすれば、またしても倉持によって危険な世界へ引き込まれたように感じる出来事です。

それでも田島はなぜ倉持から離れない?

ここが『殺人の門』で最も重要なところの一つです。

田島は倉持を憎んでいます。

それなのに、倉持が現れると再び関わってしまいます。

なぜなら倉持は、ただ田島を傷つけるだけではないからです。

田島が困っているときに助ける。

仕事を紹介する。

親しげに話しかける。

「親友」のように振る舞う。

つまり田島にとって倉持は、人生を壊す存在であると同時に、苦しいときに頼ってしまう存在でもあります。

倉持という人物についてはこちらで詳しく整理しています。

『殺人の門』倉持修は何者?田島の人生を狂わせる理由と正体を原作から解説

田島はなぜ何度も倉持を殺せないのか

田島は何度も本気で倉持を殺したいと思います。

しかし、実際にはなかなか殺せません。

これも『殺人の門』の中心テーマです。

人間は誰かを憎み、「死んでほしい」と思ったからといって、そのまま殺人者になるわけではありません。

殺意と殺人の間には大きな境界があります。

田島は何度もその「門」の前まで行きながら、引き返します。

ラストでついに関係が変わる

物語終盤、倉持は別の人物から襲われ、病院へ運ばれます。

田島は入院している倉持のもとへ向かい、眠っている倉持の首に手をかけます。

長い年月をかけて積み重なった感情が、ついに行動へ変わる場面です。

原作の最後についてはこちらの記事で詳しく整理しています。

『殺人の門』原作の最後はどうなる?田島は倉持を殺すのか結末を解説

田島だけが一方的な被害者なのか?

ここからは考察です。

田島の人生が倉持によって大きく乱されているのは間違いありません。

しかし作品は、田島を完全に受け身の被害者としてだけ描いているわけでもありません。

田島自身が何度も倉持との関係に戻ってしまうからです。

もちろん、それによって倉持の行動が正当化されるわけではありません。

ただ、『殺人の門』は「すべて悪人の倉持が悪かった」と単純化せず、人間の弱さや依存まで描いている作品だと考えられます。

田島の殺意を最初から読みたい方へ

田島の殺意は一度の裏切りで生まれたものではなく、少年時代から大人になるまで何度も出来事が積み重なって形成されています。

そのため、2人の関係を理解するなら上巻から順番に読むのが分かりやすいです。

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まとめ

田島が倉持を殺したいほど憎む理由は、一つではありません。

少年時代から大人になるまで、人生の重要な場面で何度も倉持に振り回され、「自分の人生を壊された」という感情が積み重なった結果です。

しかし倉持は、田島を傷つけるだけでなく、困ったときに助ける存在でもあります。

だから田島は離れられない。

憎んでいるのに離れられず、殺したいのに殺せない。

この矛盾した2人の関係こそが、『殺人の門』という物語の核になっています。