※この記事には『麒麟の翼』の事件の真相や結末に関する重大なネタバレがあります。

『麒麟の翼』では、殺害された青柳武明が、生前に息子・悠人の中学時代に起きた水泳部の事故について調べていたことが明らかになります。

しかし、武明は警察でも学校関係者でもありません。

なぜ父親である武明が、何年も前に起きた水泳部の事故を自分で追っていたのでしょうか。

結論からいうと、青柳武明(中井貴一)は、息子・悠人が過去の事故に関わっていたことを知り、その事実を曖昧なまま終わらせず、父親として真相と向き合おうとしていました。

そして武明が調べていたのは、単に「息子が何をしたのか」だけではありません。事故によって傷ついた吉永友之のその後まで含め、自分に何ができるのかを考えていたことが重要です。

この記事でわかること

  • 青柳武明が水泳部事故を調べていた理由
  • 息子・悠人が過去に何を隠していたのか
  • 武明は息子を責めようとしていたのか
  • 七福神巡りと水泳部事故のつながり
  • 武明が悠人に本当に伝えたかったこと

青柳武明は息子・悠人の過去に疑問を持っていた

青柳武明と息子・青柳悠人(松坂桃李)は、何でも話せる親子ではありませんでした。

悠人は父親に反発する部分があり、武明も息子が抱えている過去のすべてを知っていたわけではありません。

ところが武明は、悠人が中学生だったころの水泳部で起きた事故について知ることになります。

そこから武明は、息子が過去に何をしたのか、そして事故の裏側で何が起きていたのかを自分で確かめようと動き始めます。

水泳部では何が起きていたのか

悠人の中学時代、水泳部では後輩の吉永友之(菅田将暉)が深刻な被害を受ける事故が起きていました。

そして、その事故には悠人たち水泳部員の行動が関係していました。

問題なのは、事故が起きたことだけではありません。

その後、関係者が真実と十分に向き合わないまま時間が過ぎてしまったことが、物語の大きなポイントになっています。

水泳部で起きた出来事については、『麒麟の翼』水泳部で何があった?事故と隠蔽が事件につながった理由で詳しく整理しています。

武明は「息子を守るため」に真相を隠そうとしたわけではない

ここが青柳武明という父親を理解するうえで重要なところです。

もし武明が息子を守ることだけを考えていたなら、過去の事故をわざわざ掘り返す必要はありません。

知らないふりをして、そのまま終わらせることもできたはずです。

しかし武明は逆の行動を取ります。

息子が関わった過去だからこそ、自分で真実を確かめようとしたのです。

つまり武明にとって「息子を愛すること」と「息子の過ちをなかったことにすること」は同じではありませんでした。

武明が知りたかったのは「誰が悪いか」だけではない

武明が調べていたことを、単なる犯人探しとして考えると本作のテーマを見失ってしまいます。

武明が向き合おうとしていたのは、事故によって傷ついた人がいるという事実です。

息子が何をしたのか。

なぜそのようなことが起きたのか。

そして、その結果として誰の人生が変わってしまったのか。

そこまで知ったうえで、父親として何ができるのかを考えようとしていました。

武明は悠人を責めたかったのか?

武明の目的を「息子を追及して責めること」だけだったと考えるのは不自然です。

もちろん、悠人がしたことを無条件で許そうとしていたわけでもありません。

過去に起きたことには責任があり、傷ついた人もいます。

だからこそ武明は、その事実から逃げずに向き合う必要があると考えていたのでしょう。

同時に、悠人の人生そのものを否定しようとしていたわけでもありません。

過去と向き合い、償うべきことを償い、そのうえで先へ進んでほしい。

武明の行動からは、そんな父親としての思いが読み取れます。

武明の調査が「七福神巡り」につながっていく

武明の行動を追ううえで重要なのが、日本橋での七福神巡りです。

事件後、加賀恭一郎(阿部寛)は、武明が生前に七福神巡りをしていたことを突き止めます。

ところが青柳家の家族は、その目的を知りませんでした。

講談社の原作紹介でも、「家族が知らなかった七福神巡り」と「父の命懸けの決意」が物語の大きな謎として示されています。

つまり七福神巡りは、単なる趣味として挿入された設定ではありません。

武明が息子の過去と向き合い、事故で傷ついた人への思いを抱えながら行動していたことにつながる重要な手掛かりです。

七福神巡りについては、『麒麟の翼』青柳武明はなぜ七福神巡りをしていた?日本橋に通った理由で詳しく解説しています。

なぜ武明は悠人本人に直接聞かなかったのか

「そこまで気になっていたなら、息子に直接聞けばよかったのでは?」という疑問も残ります。

しかし、それが簡単にできない親子だったことが『麒麟の翼』の重要な部分です。

武明と悠人の間には距離があり、悠人自身も過去について父親に素直に話せる状態ではありませんでした。

だから武明は、息子の言葉だけを待つのではなく、自分の足で過去をたどります。

このすれ違いがあるからこそ、武明が亡くなったあとになって悠人が父の行動を知る展開が切なく感じられます。

武明は息子の代わりに謝ればいいと考えていたわけでもない

もう一つ重要なのは、親が代わりに行動すれば子どもの責任が消えるわけではないことです。

武明が真相を追ったからといって、悠人自身が過去と向き合わなくてよくなるわけではありません。

むしろ武明が調べたことによって、悠人は自分が避け続けてきた過去と向き合うことになります。

父親がすべてを解決してあげるのではなく、息子自身がもう一度立ち上がるきっかけを作る。

そこに「父の命懸けの決意」という本作のテーマが重なります。

武明の死後、悠人は初めて父の本当の姿を知る

『麒麟の翼』で最も皮肉なのは、武明が生きている間に悠人へその思いを十分に伝えられなかったことです。

悠人が父親の本当の行動を知るのは、武明が殺されたあとです。

加賀が事件を捜査し、武明の足取りをたどったことで、家族が知らなかった父親の姿が次々と明らかになります。

「自分の父親は何を考えていたのか」。

悠人は、父を失ってから初めてその答えに近づくことになります。

水泳部事故を調べていた理由が麒麟像にもつながる

武明は胸を刺されたあと、助けを求めることなく約8分間歩き、日本橋の翼を持つ麒麟像までたどり着きます。

TBS公式でも、この「なぜ8分間歩き続けたのか」が事件の中心となる謎として紹介されています。

武明が息子の過去を調べ、日本橋へ通っていたことを知ると、この最後の行動も単なる偶然ではないことが見えてきます。

青柳が麒麟像まで歩いた理由については、『麒麟の翼』青柳武明はなぜ麒麟像まで歩いた?8分間に込めた父の思いで詳しく考察しています。

武明が本当に悠人へ伝えたかったこと

ここからは作品全体を踏まえた考察です。

武明が息子の過去を調べたのは、「お前は間違っていた」と突きつけるためだけではなかったと考えられます。

過去を消すことはできない。

しかし、過去から逃げ続ける必要もない。

自分がしたことに向き合い、償い、そのうえで未来へ進むことはできる。

武明が悠人に伝えたかったのは、そのことだったのではないでしょうか。

それは、作品タイトルにもなっている「翼」のイメージにもつながります。

タイトルの意味については、『麒麟の翼』タイトルの意味は?日本橋の麒麟像と「翼」が象徴するものを考察でも詳しく掘り下げています。

まとめ|武明は息子を裁くためではなく、過去と向き合わせるために真相を追った

青柳武明が息子・悠人の水泳部事故を調べていたのは、単に息子の秘密を暴くためではありません。

悠人が過去に何をしたのか、そのことで誰が傷ついたのかを知り、父親としてその事実と向き合おうとしていました。

武明は息子の過ちをなかったことにはしません。

しかし、過ちを犯した息子そのものを見捨ててもいません。

過去と向き合い、償い、その先へ進んでほしい。

その思いを知ることで、武明の七福神巡りや、最後に麒麟像へ向かった行動も一本につながって見えてきます。

青柳親子の関係をさらに掘り下げたい方は、『麒麟の翼』父・青柳武明は息子を許していた?悠人に伝えたかったことを考察もあわせてご覧ください。

原作『麒麟の翼』を読む

原作では、加賀が青柳の七福神巡りを突き止め、家族も知らなかった武明の行動へ近づいていきます。父親がなぜそこまでして息子の過去と向き合ったのかを、よりじっくり追いたい方におすすめです。

映画『麒麟の翼』を見返したい方へ

武明が悠人の過去を知っていたことを踏まえて見返すと、青柳親子の場面や日本橋、麒麟像の意味も初見とは違って見えてきます。DVD・Blu-rayで改めて観たい方は、ディスカスで作品を探してみてください。